第十六回 ~読んでいない本について堂々と語る方法~

登場人物

こみやん
常連。ファシリテーター&このホームページの執筆者。
のそ
2回目の登場。ゆっこを連れてきた。
タカハシ
常連。今回の選書者。来月阿佐ヶ谷で大道芸やります。
ゆっこ
今回初登場。のその同級生。
ちーちゃん
今回初登場。
KC
常連。自然言語研究者。いつも通り遅れて登場。
開催日付場所 2016/11/12 @ コーヒービーン&ティーリーフ 東京ガーデンテラス紀尾井町店

今回の選書について

今回の選書は、2016年10月6日に文庫版が出たばかりの『読んでいない本について堂々と語る方法』、選者はタカハシくんです。単行本が出たのは2008年。タイトルから想像されるハウツー本ではなく、各種のエピソードを引用しながら、読書について問い直している本です。同じくタカハシくんがあげた、ショーペンハウエル『読書について』も気になったけど、今回はこちらになりました。
特徴は、文中各所に出てくる引用文献の補足として、著者がどれだけその文献を読み込んだかを示す記号がついている点。流し読みは<流>、読んでいない本は<未>など。

 

 今回の議論

こみや
引用がとても多くて、最初は読み進めるのが難しかったけど、「内なる地図」って言葉が出てきた辺りから主張がすっと入ってきて面白くなった。この本は『読んでいない本について堂々と語る方法』について、<流し読み>の引用を多めに用いて説明している、とてもエキセントリックな本でした。読んでいくうちに、だんだん「この本自体、読まなくても語っていいんじゃないか」っていう考えになってきて、後半は読み飛ばした。
ゆっこ
この本を大学の時に読みたかった。私は大学で文学部に所属していました。私が大学の時についていた先生は、一冊の本も一文一文細かく読み解いていく先生でした。その方はもともと数学の先生だったので、文の分析と言うか、すべての単語がその単語でなければならない理由を読み解いていく読み方を教えてました。
こみや
その先生は、文学に対して数学の証明問題みたいな問題を出すんだね。
ゆっこ
そう、だから『読んでいない本について堂々と語る方法』を読んで、大事なのは全部読んでいることよりも、まず堂々と自分の意見を主張することなんだと納得しました。
のそ
私もそう思った。特に2節の、「どんな状況で語るか」が面白かった。一冊の書物を読んでいることはそんなに重要ではなくって、読者が置かれたコンテクストや、その人が元々持っている知識自体が、読書に影響するんだって言う主張が、とてもシンプルで面白かった。全部読んでいなくても、ある種知ったかぶりできるスキルさえ知っていればいいんだろうと。
タカハシ
KCさんってそういう読み方しますよね。『夏子の冒険』やったときも、時代背景から対立構造を読み解こうとしたし。
こみや
あと今日は来ていない、ふんずさんってそこらへんを突き詰めた人なの。彼は本を読まないことで有名な人。なのに、小学生の夏休みの宿題で、あらすじと目次だけ読んで読書感想文書いて、入選しちゃうんだよね。
のそ
「教養というのは個人の無知が隠蔽される場」っていうのが、そこら辺を表しているとても象徴的な一節だった。例として、大学に入ったら、必ず最初に教養の授業があるんだけど、実はそれは、すべてを知らなくても何かを語れるスキルを教えているということ。一方で、その先にあるアカデミックの世界では、関連文献を緻密に読んでいることが前提で進められるのが、逆説的で、とても皮肉だと思った。
ゆっこ
自分が作者のフリをして、ある本について語るエピソードも面白かった。「著作を書かれるにあたって、参考にした本はなんですか?」「何も読んでいない」とか、そういう痛烈な皮肉に取れる会話が、逆に話者に対する畏敬の念を生むっていう。ちゃんと文献読んでる人より、いろんな人から聞きかじってる人の方が物事をちゃんと分かってることもあるし、そんなに真面目に読まなくていいんだっていう、今のこの状態で大学に戻りたい。やっぱり『読んでいない本について堂々と語る方法』は、大学に入る前に読んでおけばよかったな。
タカハシ
ゆっこさんは英文学科でどんな本を読んでいたんですか?
ゆっこ
私の先生はウラジミール・ナブコフが専門だったの。だから先生はテキストをとても緻密に読んでいたんだけど。私は、そこまで難しくない、ホーソン。
タカハシ
ナブコフか。後者はホーソーンって言われたりもしますね。
こみや
タカハシくん、さすが「内なる地図」が広いんだね。
タカハシ
ただこれ僕ね、どっちも、読んだことがないんですよ。
のそ
タカハシくんって、いつでも、なんでも知ってるって感じの喋り方するよね。
こみや
のそはタカハシくんに会うの何回目?
のそ
…2回目。

ナブコフとホーソーン

こみや
ちゃんと知らなくても、その文脈さえわかっていればいいんだよね。
タカハシくんは仕事で本の営業をやってるけど、それってとても「読んでいない本について堂々と語る」シーンが多い職業なんじゃない?
タカハシ
まさに。下手したら、毎月新刊15冊とか、雑誌50誌くらい書店に持っていくんですけど、とても読めないです。新刊は、持っていく3日前に初めて見本渡されたりするし、雑誌も読むには部数が多すぎるし。雑誌の場合は、流行りごとにテーマがぐるぐる回ってるんで、しばらくやっていればなんとなく内容がわかるようにもなるんですけどね。あとは書店さんも大量の本を扱うので、どっちも置かれてる状況は同じなんです。
のそ
営業の新人研修で『読んでいない本について堂々と語る方法』を読ませたらいいんだろうね。
タカハシ
出版社の就活のときも、同じようなことしてました。誰も、本を選ぶ時に出版社で選ばないじゃないですか。だから就活のときだけその出版社の本を3冊くらいパラパラって読んで、プレゼンをしてました。僕、大学の時にプレゼンの授業はたくさん取っていたんですよ。地方に行って、地方の課題についてプレゼンして、そんでお礼に日本酒もらうっていうような。
ゆっこ
私は人材系の仕事をしているんだけど、その研修の中に、ちょっと変わった営業の研修があるの。グループワークで、初めの人が他の人に知られないようにしながら商品の絵を書いて、次の人が同じように商品名を考えて、次の人が売りどころを考えて…、っていう風に、どんどん一つずつ商品の特性を考えていくの。で、グルっと回ったら、最初の人が、自分が書いた絵以外自分が知らない特性が付けられた商品をプレゼンするっていう研修。これも、営業を仕事にしている人がやると、上手いんだよね。
こみや
僕が仕事でしているコツは、僕はエンジニアをしているんだけど、周りの先輩の方が技術的な細かい知識をよく知っているんだよね。で、僕はその知識が何に使われるのか、とか、少し上の階層の知識は知ってるから、知識を習う時に一言「なるほど。それってこういうことですね。」って言い換えると、「こいつやるな…!」って思われたりするの。
タカハシ
上手いですね。「内なる地図」も似たようなもんですね。内なる地図の勝負になると、より牽引性のある地図を持っている人が勝ちますからね。
こみや
そう。いかに相手の知識をメタ的に覆えるかが勝負っていうか。メタ勝負。 さらに、ある知識を習う際にも、知識の非対称性っていうか、相手が知らない知識をほのめかすと、完璧なんだよね。
タカハシ
それって最終的に「宇宙」とか「哲学」に行き着くまで終わらなそうですね。
僕は読書について書いている本を読むのが好きなんです。ある本に、「世代ごとの共通語」って言葉が出てきます。「内なる地図」って、そういう「あるコミュニティの共通言語」ってことなんだろうなと思いながら読みました。
こみや
その「内なる地図」を全く共有していないどっかの先住民族に、ハムレットを理解させるエピソードが好き。その先住民族は、イギリスの文化なんてこれっぽっちも知らないんだけど、その先住民族がハムレットに対してするツッコミが、イギリス側からしたら常識はずれの視点ばかりっていうエピソード。全く前提が違うからこそ、斬新で面白い視点を本に与えてくれることもある。
タカハシ
亡霊が出て来るシーンで、先住民族から「死んだ人間が歩くわけねぇだろ」って突っ込まれるとかですね。イギリス文化のほうがよっぽどオカルト的っていう。
こみや
その読み方って、この読書会のあり方を全力で肯定された気がしたの。この読書会って、本を読んでこない人も許容するじゃない。その分、ここに参加している人は、その本に対する斬新な視点を楽しむことができる
のそ
ハムレットつながりだと、「屈辱」って言うゲームのエピソードも面白かった。このゲームは、誰か一人が、自分が読んだことのない本の名前を言って、その人以外にこの本を読んだことがある人が多いほど、その人の点数が高くなるっていうゲーム。
タカハシ
そういえば最近新刊出ましたね。『ハリーポッター』読んだことある人?…マジですか。読んだ人が3人中0人。初版50万部ですよ?
こみや
『舟を編む』!…読んだことあるのが3人中2人。
タカハシ
『はらぺこあおむし』!…3人中1人。意外と難しいですね。
ゆっこ
じゃあねー、『7つの習慣』。あ、1人だけ読んだことある人がいた。
のそ
難しいな。又吉の『火花』。…えっ誰も読んでないの?悔しいな。『コンビニ人間』は面白かったけどね。…あ、こっちはみんな読んだことあるんだ。3人中3人。
タカハシ
『コンビニ人間』はとても面白かったですね。ああいう、自分がいる場所に幸せを見出すことができる人が増えて、変に「仕事で自己実現しよう」とか思わなければ、世の中はもう少しシンプルになるんじゃないかなって思います。みんな、スポーツに関しては自分の才能がないって諦めたりするんですけど、ホワイトカラーに求められる、勉強については全員頑張るのが正しいっていう風潮があると思うんです。なんでみんな、勉強も才能だって諦めないんだろう。
のそ
「屈辱」の敗者復活戦やってもいい?『スラムダンク』!よかった!みんな読んでたんだ。スラムダンクは女子でも共通語になってたから、気になってたんだ。
で、本題に戻すと、本に出てくるエピソードでは、英文学者がこのゲームをするの。そこでは、負けん気とプライドが強い、とても「屈辱」ゲームに向いてない性格の学者が出てくるのね。葛藤の挙句、彼が自分が出した本のタイトルが『ハムレット』。結局、英文学者なのに基礎中の基礎を読んでないの?っていう印象が強すぎて、彼は大学を追い出されちゃうの。何かを読んだことがあるとか、無いとかっていうのを明確にしないことが幸せな世界もある。
タカハシ
読んだことのない本についてのビブリオバトルも面白そうですね。
のそ
この本には流し読みが多く出てくるけど、速読と流し読みって違うのかな?
タカハシ
僕は速読を習ったことがあるんですが、速読は単位時間あたりに処理できる文章の量を増やす技術のことです。ある文章からキーワードとなる単語を抜き出して、意味を抽象化して理解するスキル。それは目の動きっていう身体運動と、キーワードを処理する能力から成ります。
のそ
流し読みが飛ばし読みだとすると、速読はあくまで全部目に入れてるから、少し違うんだね。
こみや
速読もそうだけど、「本をいかに読むのか」って方法を言葉で説明すると、それっていわゆる人工知能なんだろうな。言葉で定義できることって、いずれはコンピューターができるようになる。
KC
よっ。
こみや
いつも通り、少し遅れて来たね。今回は課題図書読んできた?
KC
へー、今回は『読んでいない本について堂々と語る方法』っていうのか。
ちーちゃん
私も遅れて到着しました。私の内なる地図は、これ。国語便覧。私は便覧を持って来たことで、今日この本について語りたいことは語り尽くしました。

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こみや
さてKC、この『読んでいない本について堂々と語る方法』と、国語便覧がヒントなんだけど、この本はどんな本だと思う?
KC
本の意味っていうのは、本自体じゃなくて、その本の周りの情報、つまり本が置かれている文脈で定義されるってことじゃない?本に限らず、何かの単語の意味っていうのは、その文脈で変わるから、逆に文脈さえ知っていれば、その単語の本来の意味を知らなくてもわかる、っていう。
一同
さすが。
KC
あらあら、当たってしまったか。…実は俺は、この領域の素人じゃなくって、一応言語処理の研究者なんだよ。情報処理の中で、特に書かれた情報、つまり自然言語情報を処理するっていう分野の研究者なの。この分野で重要な考え方に、「分布仮説」っていうのがある。簡単に言うと、コンテクストから単語の意味が決まるっていうのは、この考え方が元になってる。
ちーちゃん
法律もそうだよね。定説があって、全文条文を覚えているわけじゃなくて、ある法律と別の法律の関係性を覚えていることを問われるのが司法試験だから、分布仮説と同じ考え方なのかな。司法の分野では、本に書いていないことをどれだけ知ってるかが勝負になってるけど。
のそ
いわゆる人工知能って、どうやって「内なる地図」を獲得するの?
KC
例えばWikipediaとか、大量のテキストを、一単語一単語覚えていくの。この覚え方は、ある一単語の意味を、周りの十単語くらいから推測させようとするんだよね。その際、推測が当たっていたら報酬、間違えたら罰を与えるっていう、ニューラルネットワークみたいなアルゴリズムを組んで、それをWikipedia全体に対してクロールさせていくの。その結果、得られた単語がベクトル空間にマッピングされるんだけど、その一つ一つの意味ベクトルが単語の意味を表現できるようになっている。例えば「KING」っていう単語の意味ベクトルがあって、そこから「MAN」を引いて、「WOMAN」を足すと、「QUEEN」になるような、そういうベクトルを作っておく。それって意味そのものじゃん。
のそ
Wikipediaは人間が与えるの?何が聞きたいかって、そこで言う報酬や罰って、人工知能がWikipedia自体を読むモチベーションになるのかな?って思って。
こみや
そこで言う報酬や罰って、点数を付けるための評価基準みたいな、数値的なものだよ。Wikipediaは人間が与えてるもので、機械には選びようがない。その中でどう意味を習得していくかっていう方法のことを、最近は「人工知能」って呼んでるの。
で、さっきのKCの話だと、つまり文章によって単語の意味が変わるってことは、学習元のWikipediaっていう母集団を変えると、同じ単語でも意味ベクトルは変わるってことだよね?
KC
そうそう。Wikipediaのいいところは、文章が辞書みたいに構造化されているから、覚える上で効率がいいんだよね。逆にTwitterだと文章にも意味にも一貫性がないから、覚える母集団としては向いてないかな。
小説を覚えさせると、その小説の意味ベクトルができる。最近話題なのは、村上春樹の小説を覚えさせて、入れた文章を、村上春樹風に変換してくれるアプリがあるんだよ。
こみや
文系・理系って枠を超えた面白い話だね。
のそ
元々の分野は何になるの?
KC
情報処理だね。昔は画像処理もやってたけど、いまは自然言語処理をやってる。

編集後記

改めて、知らないことを含めて議論できる術は、現代社会を生き延びる必須スキルなんだと思った。個人的には、そんなスキルが必要な社会って、そもそもどうなの?って疑問は正直感じるが、少なくともここにいる人は『読んでいない本を堂々と語る方法』の必要性を感じてるし、それが得意な人なんだと思った。

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